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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog

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八度目のさんてんいちいち沈丁花

タイトルは、今年の三月に詠んだ句です。

先日、夕食を食べてゐたら朋也が来ました。
出張の土産を持つて来てくれたんだけど、連絡も無く、突然、やつて来た上に、とても疲れた顔。
翼も凄く心配して、夕食は一旦中断して、朋也の話を聞くことにしました。

出張先は宮城県。
朋也の上司が、朋也が多賀城市の出身なのを知つてゐて、今回の出張のメンバーに選んでくれたさうです。

介護付き老人ホームへ貸し出してゐる機械のメンテナンスと新商品の紹介等、業務的にはいつもやつてゐる事だから、問題は無かつたらしいのだけれど、入居者の方に協力してもらつて、デモンストレーションを奴ゐた時に、それを見てゐた他の入居者の間から、突然、声が上がつたさうだ。

「○○!」

男性の名前を叫びながら、ヘルパーさんが止める間も無く、車椅子の男性が前に出て来たと云ふ。

「俺の顔を見てたんだよね、そのおぢいちやん。凄い怖い顔でさ。」

朋也はその時の事を思い出してゐる様だつた。
てつきり、クレームでも食らつたのかと思つたら、それは朋也にとつて、もつと辛い事だつた。

朋也がその方に、どうかされましたか?と声を掛けると、その男性は、

「危ない!○○、逃げろ!」

と叫んだのださうだ。
車椅子を押して、その場を離れようとするヘルパーさんに、全身で抗いながら、最後は泣きながら、

「○○!逃げろ!津波が、津波が!」

と。

「凄い息が苦しくなつて、その場に座り込みさうになつたけど、おぢいちやんに言つたんだ。おぢいちやんの手を握つて、『大丈夫。津波はもう来ないよ。俺も大丈夫だつたし。みんな居るから、もう、大丈夫だから。』つて、言つたんだ。」

後で施設長さんと、ヘルパーの主任の方が、謝りに来てくださつて、あの入居者の男性は、津波で娘さんと、その息子であるお孫さんを亡くされたのだと話してくれたさうです。
朋也も被災者なのだと聞いて、他県出身の施設長さんも宮城県出身の主任さんも、上司も、みんな泣いたさうです。

「8年、経つてんだよね。でも、無くした物は戻つて来ないしさ、何も変はつてないんだよね。」

俺は、頷く事しかできませんでした。
経験した人にしか入れない場所に踏み込む方法は無いし、また、踏み込む事はしてはいけないのです。

ただ、話を聞いて、想像して、気持ちを共有する事はできます。
さう云ふ支へが必要な時、俺は朋也の傍に居たいと思ひます。

止まつた時間を抱いたまま、朋也の“今”は進んでゆきます。
今を生きてゐます。













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