帆を張るやうに胸を張れ

駆け出しの頃、研修の一環として“飛び込み営業”と言ふ物をやらされた。
新人が二人一組になり、これはと思ふ会社や店舗へ文字通り「飛び込んで」ゆくのだ。
一応の目安と言ふか、企業名は幾つか教へて貰つてあつたから、今思へば多少の根回しはしてあつたのかもしれない。

それでも、営業の経験が全く無い我々新人にとつて、それは大変な試練だつたんだ。

飛び込んだ先がライバル会社のテリトリーで一言も喋らせて貰へなかつた者、“寿限無”を唱へさせられた者、居合はせた顧客の将棋の相手をさせられた者もゐた。

そして…新興宗教の巣に飛び込んでしまひ、仲間を置き去りにして逃げ出した者。

Ｆ沢。俺は絶対に忘れないぜ。


ちなみに現在我が社では、そのやうな蛮行は行はれてをりません。