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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


唯ひとり十一月の海を見る

火を点ける前の煙草の匂ひが好きだと言ふ人がゐた。
俺が煙草を出して指に挟むと直に取り上げて匂ひを嗅ぐ。

初めての口付けの後、君は苦いと言つて顔をしかめてゐたつけ。

初めてのセックスの後、俺が煙草を吸ふ為にベッドを出ると、君は慌てたやうに起き上がつた。

「何処へ行くの?」

その声の余りの切実さに俺も慌てる。

「…煙草。」

さう答へると君は頭から毛布に潜り込んだ。

「早く帰つて来て。」

台所で煙草を吸ひながら君を置いて行つてしまつた男の事を思つた。

一度火を点けてしまへば後は燃え尽きるだけ。
灰皿の吸ひ殻のやうに、寒々と薄汚れて。

俺は吸ひ差しの煙草を灰皿に押し付け、君の待つベッドへ戻つた。

俺が火を点けた体を、もう一度味はふ為に。


  1. 性欲
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