帆を張るやうに胸を張れ

ただいま。

昨夜は一晩中、同僚の持っていたポータブルテレビを部長のデスクに置いて皆で観ていた。
眠ろうにも、思い出した様に来る余震と緊急車輌のサイレンに鋭敏になってしまった体が眠気を拒否する。

メールは新着を問合わせないと受信されず、相変わらず携帯は繋がらない。
外の様子を見がてら、コンビニへ出掛けた連中が、首を振りながら戻ってきた。

「外国だったら略奪が起きてるな。」

その一言で、買い物に行きたいと言っていた連中が黙った。

宮城に祖父母が居ると言う女子社員は、画面の中の惨状に悲鳴を上げていたが、やがて無言になり顔を覆った。

明け方まではほぼ一時間置きに余震が有った様に思う。

長野県北部で震度６弱、新潟の中越でも震度６弱。
茨城でも、東京湾でも。静岡でも。

津波の警戒もまだ解けない。
臨海工場地帯やコンビナートの火災は、燃え尽きるまで鎮火は無理だと言う。

福島の原発は炉心溶融の恐れが有るさうだ。
以前から「原子力発電はＣＯ２を出さない、クリーンなエネルギーです。」と云う政府と電力会社がグルになった詐欺ＣＭを苦々しく思っていたんだけど、全く、どの口が言ってるんだか。

東海村の事故を忘れてはいけない。

あれは二度と核の被害が起こらない筈の国内で、確かに起きた臨界事故。そして被曝事故。
もし炉心融解が起これば、放出された放射能は上空へ舞い上がり、風や雲で運ばれて撒き散らされる。日本中、何処へも逃げる場所は無い。

天災で死ぬのは諦められるが、人災では諦め切れねえな。