帆を張るやうに胸を張れ

実家のママンに停電は不便でせうと言つたら、

「あなたが小さい頃は、停電なんてしよつちゆうだつたわ。臘燭でカレーライス食べたの覚へてないかしら。」

と言はれた。

覚へてゐるよ。ママンに懐中電灯を照らして貰ひながら、トイレに行つた事も。

さう言へば、いつたいいつから夜はこんなに明るくなつたんだらう。
夜が暗くたつて、家電が全自動ぢやなくたつて、俺はちやんと育つたぢやないか。

ショッピングモールの通路の電灯が消されてゐたり、年中無休だつた店に定休日が出来たりする事に不便を感じながらも、何処かで俺は安堵してゐる。
五感を働かせ、自然の営みの中で暮らす事を手放す前に立ち止まる事が出来た事に。

今回の地震を機会に、もう一度取り戻す事が出来ないだらうか。
忍耐や辛抱、思ひ遣りや譲り合ひの心を。

取り戻せ。