くちびる。
A沢女史は食事の前に口紅を綺麗に拭き取つてから食べ始める。
この前一緒に飯を食つた時に、紙ナプキンを差し出して、
「これに“ん~”つてやつて。」
と言つたら、
「どうするの?」
つて言ふから、
「ジップロックに入れて、部屋の壁に貼つてある君の写真の横へ、ピンで留めておくのさ。」
と言つたら、俺が言ひ終はらない内に紙ナプキンに、“ん~”つてやつてくれた。
A沢の唇つて、上唇よりも下唇がやや厚くて、その割合が丁度良いつて言ふか、なんとも言へずセクシーなの。
「これでいい?」
A沢は中央が淡ひ薔薇色に染まつた紙ナプキンを俺に寄越し、俺の耳許で“ヘンタイ”と囁いて席を立つた。
かう云ふ事ばかりやつてるから、付き合つてるつて噂が消えないんだよな、俺達。