帆を張るやうに胸を張れ

キャビネットを漁つてゐたら、文房具のストックを入れておく抽斗の奥から綴じ紐が大量に出てきた。
もうだいぶ前から使つてゐないから、いつから有るのかも判らない。

捨てる訳にもゆかないし、総務に返しに行つたら怒られるよなあ…と暫し悩んでゐると、たまたま通り掛かつた部長が言つた。

「女子社員の髪を括るのに使へばいいんぢやないか？」

全く、なんて事を言つてくれちやふんだらうね、この人は。
一瞬の内に、女の子達の顰蹙を買い占めてしまひましたよ。

凍りつくフロアの中、同意を求める部長の視線と、あり得ないだらうと云ふ女の子達の視線が俺に突き刺さります。

俺はいつたいどうすれば…

結局、耐へられずに、トイレに避難致しました。
そして綴じ紐は、また抽斗の奥深くしまはれたのでありました。

めでたし、めでたし。