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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog

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プリティーウーマン。

近所のコンビニで、煙草を買ひに来たおばあちやんに会ひました。レジの女の子の背後にずらりと並んだ煙草を睨んで、うーんうーんと唸つてゐます。
おばあちやんが棚に視線を走らせる度に、女の子が右に左に避けるので、おばあちやんは申し訳なささうにだんだん小さくなつてゆきました。

「煙草の箱の色とか判りますか?」

とうとう、お節介の虫が耐へ切れずにしやしやり出てしまひました。

「赤くて四角い箱なのよ。すみませんねえ。」

おばあちやんは俺にまで頭を下げます。

「いいえ。長いとか、小さいとかは?」

「普通の大きさだつたかしら…なんて、煙草の普通が判らないんだけど。」

俺は女の子に赤ラークのロングとショートを取つて貰つて、恐縮するおばあちやんに見せました。

「真つ赤ぢやなかつたわ。」

「赤マルの箱くれる?」

女の子は隣のレジを開けて他の客の相手をしながらも協力してくれます。
マルボロのボックスを見せた時、おばあちやんが、あ、と声を上げました。

「これの横の煙草だわ!」

「マルボロの8ミリ!」

女の子が嬉しさうに、こちら、とおばあちやんにマルボロの8ミリのボックスを差し出しました。

「これ、これだわ!ありがたう。これを二つ下さい。」

おばあちやんはにこにこしながら、煙草をエプロンのポケットにしまふと、女の子と俺に頭を下げながら帰つてゆきました。

「ありがたうございました。」

「いいえ。」

俺は礼を言ふ女の子に微笑んで、足取りも軽く自動ドアにに向かひました。
良い事をした後は気持ちが良いものです。

「あ、いらつしやいませ。」

ドアの近くの棚の方から声がしました。そちらを見ると、店長が立つてゐました。

「あ。」

店長の顔を見た途端、俺はある事を思ひ出しました。
先程までの弾んだ気持ちは一気に萎み、重い足取りでレジまで戻ります。

「いらつしやいませ?」

女の子もきよとんとしてゐます。

「…俺も煙草買ひに来たんだつた…」

女の子は今にも笑ひ出しさうなのを必死に堪へながら、煙草の種類を聞いてきました。
何気ないふうを装つてはゐるけど、小さく息を止めてゐるのが判るんだよう。

その時、店長がレジに入つて来ました。
女の子に、煙草?と聞いて、女の子が頷くと、はい、と、セッタを1つ取つて寄越しました。
そして、何となく可笑しな空気を感じるのか、俺と女の子の顔を見比べてゐます。

きつと女の子は、俺が帰つた後、店長に言ふんだらうな。

自動ドアを出た後、俺は背中に店長のウヒャヒャヒャと云ふ笑へ声を聞いたやうな気がしました。











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