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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


遠い日の言葉の如く金木犀

男のくせにと言はれさうで、自分からは余り話題にしないけれど、俺は子供の頃から花が好きだつた。

実家の庭にも隠居所の庭にも、いつも季節の花が溢れてゐた。
チューリップや紫陽花、ダリアや菊等、学校へゆく時によくママンが切つて持たせてくれたのだけれど、人目を気にしつつも、花をくるんでゐる新聞紙に顔を埋めるやうにして、登校する道すがら香りを楽しんでゐた。

時には隠居所の、枇杷や柿の実の付いた枝を持たされる事も有つた。

紫陽花は水揚げが悪いから切り花には向かない事や、百合の花粉は服に付くと落ちないから活ける時は雌しべを取つてしまふ事等はその時に覚へた。

花を持つて登校したのは、確か小学校までだつたと思ふ。
中学に上がつてから、いつものやうに沈丁花の枝を抱へて登校すると、幾人かの男子に、

「男のくせに。」
「格好つけやがつて。」
と言はれた。
先生は喜んでくれたけれど、それきり俺は、学校へ花を持つてゆくのを止めてしまつた。
ママンも強ひて持つてゆくようには言はなかつたやうに思ふ。

考へてみれば、あれが思春期の始まりだつたんだらうなあ。少しでもからかはれようものなら、途端に何もかもが嫌になつてしまつたあの頃。
“未来”なんて、目には見えても掴めない、星のやうな物だつた。


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