2ntブログ

帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


過去の恋。

「どこで、どうやって知り合うの?」

「何と。」

アバウトな質問に俺が聞き返すと、翼は心底嫌そうな顔でノートにペンを走らせ、俺に突きつけた。

「男」

男…
俺は頭を巡らせ、凡そこれではないかと云う答えを言ってみた。

「彼氏って意味?」

首を傾げて疑問を表すと、翼はコックリと頷く。

「色々だ。」

そう答えて、俺は煙草をとった。

「色々って?」

翼が食い下がる。
正直、面倒くせえなと思ったのだけれど、それは即、翼に伝わったらしい。

「別にいいんだけど。」

続けて乱暴な文字が走った。

「良くねえだろ。」

俺は煙草を諦め、翼の肩に手を回して引き寄せた。
拒否されると思ったのに、その身体は意外にも、何の抵抗も無くふわりと俺の腕の中に納まってしまった。
そのまま俺の上着の中に手を入れて、
ぎゅっとしがみつく。

「そんな事聞いてどうすんだよ。」

俺は翼の頭に顎を乗せて呟いた。その僅かな振動に、翼が顔を上げた。

「ぼくはどこらへん?」

翼は俺の手を取り、手のひらに指でそう書いた。
これまたアバウトだが意味は伝わった。
しらばっくれられないと思い、俺は翼と視線を合わせた。

しらばっくれようとも思ってなかったけどな。

「今まで付き合った奴の中でか。」

真剣な目が俺の唇を見つめ、それから目を見つめる。

なんて愛おしいんだろう。

俺がうっとりと見つめ返すと、答えを促す様に翼が肩を揺すった。
まるで小さな子供が地団駄を踏む様な仕草に、俺はただ見惚れた。

「俺は、こんなに長く、一人を好きで居た事は無い。」

翼の瞳に小さく不安が過る。
物言いたげな指先が、俺の指に絡んだ。

「俺にはおまえが一番で、最後の恋人だ。」

愛していると続けようとした時、再び翼がしがみついてきた。
俺の胸に顔を擦り付ける様に首を振る。

信用していないのか、答えが間違っていたのか。

やがて、それが止むと、それきり翼は静かになった。
泣いた後の子供の様に熱い頭を、俺はずっと抱いていた。
  1. 彼との事
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