帆を張るやうに胸を張れ

取引先でトイレを借りた時に、個室に入つてゐたら後から誰か入つてきた。
シャッター音が聞こえては困るので、諦めて出ようとしてゐると、隣の個室から水を流す音がして誰か出て行つた。

すると、外から年配の女性と思はれる声がした。

「○○さん、あんた、なんでトイレ汚すのさ。」

ギョッとして固まつてゐると、○○さんとおぼしき人が答へた。

「ええと…あの…」

女性はフンと鼻を鳴らすと、強い口調でかう言ひ放つた。

「どうしてかう飛び散るのかねえ。竿が短くて溢すんなら、女の子みたく座つてしなさいよ！」

酷い…酷過ぎる…

その後、トイレのドアを乱暴に開ける音がして、どうやら○○さんは出て行つたやうだつた。

さて、俺もいつまでも籠つてゐる訳にもゆきません。いつたい、どんなをばちやんが待ち構へてゐるのかと、俺は恐る恐るドアを開けた。
しかし、そこには、華奢で若々しい、例へて言へば、女優の松原千恵子さんのやうな掃除のをばさんが…

「失礼致します。」

さう柔らかい声で言ふ彼女の脇を会釈をしてすり抜けると、俺はそそくさと手を洗つてトイレを後にしました。

竿…短い…
暫くはあの台詞と声が、頭から離れないだらうなあ。
あんまりだ(´・ω・｀)