帆を張るやうに胸を張れ

友達の車が修理から上がつてきたので、取りに行きがてら運転させて貰ひました。
トヨタの“カローラフィールダー”なんだけど、カラー(ブラックマイカ)とかボディラインが、割りと好みで、友達が靴を脱いで俺の車(※俺のスカイラインは土禁です。)に乗つたのを確認してから、いそいそと乗り込みましたので。

ところが、走り出して直ぐに、「ピーピー」と警告音が鳴り始めました。
エンジンかかつてるからライトは関係無いし、シートベルトはしてるしなあと、色々触つてゐると、ナビシートのシートベルトのランプが点灯してゐます。

「これか。」

俺はナビシートに立て掛けてあつたテニスバッグを、リアシートに移しました。するとピーピー音は、たちまち鳴り止みました。
どうやら、シートのセンサーがラケットバッグを感知して、

「シートベルトをしなさいよう。」

と、俺に文句を垂れてゐたやうです。
その他にも、ちよつとガードレールに寄つたら「寄り過ぎだよう。」とピーピー。縁石や水路でもピーピー。
対向車に道を譲らうとバックすれば、電柱にケツが擦りさうだとピーピー。

「ピーピーうるせえんだよう！」

友達の家のガレージに車を入れながら、俺は怒鳴りました。
運転中、こんなにピーピー言はれたら、運転に集中できねえだろ。

「おかえりなさい。」

俺が車から降りて、テニスバッグを下ろしてゐると、友達の奥さんが玄関を開けて出てきました。
友達が言ふには、ピーピーはこの奥さんの為なのだとか。前の“ VOXY ”にも付けてゐたんださうな。

「ピーピー音を付けないと、あれがピーピー煩いからさあ。」

「以外と愛妻家なんだな。」

俺は友達の駄洒落を聞かなかつた事にして、さう応へました。