敬礼。
あれは小学校に上がる前だつたか。まだ存命だつた祖父に連れられて、何処かの港へ船を見送りに行つた。
今思へばあれは自衛隊の船で、港は横浜港だつたのかもしれない。
真つ白な制服に身を包んだ水兵達が船首にも船尾にも整列してゐて、子供ながらにとても美しいと感じた。
海軍と陸軍では敬礼の仕方が違ふのださうだ。
「あの船は何処へ行くの?」
俺がさう問ふと、
「遠くの遠くの南の海だよ。」
さう言ひながら祖父は、遠い空を透かし見るやうな仕草をした。
いよいよ出港の時間になり、俺が祖父に促されて甲板を見上げると、水兵達は揃つた美しい敬礼をしてゐた。
「あの船は戦争に行くの?」
港からの帰り道、俺はまた祖父に問ふた。
「違ふよ。」
祖父は繋いでゐた手を放して俺の肩を抱いた。
「あの船は帰つて来る。ちやんと此処へ帰つてくるんだ。」
あの時の祖父の、哀しいやうな労しいやうな眼差しを、俺は今でもよく覚へてゐる。
今思へばあれは自衛隊の船で、港は横浜港だつたのかもしれない。
真つ白な制服に身を包んだ水兵達が船首にも船尾にも整列してゐて、子供ながらにとても美しいと感じた。
海軍と陸軍では敬礼の仕方が違ふのださうだ。
「あの船は何処へ行くの?」
俺がさう問ふと、
「遠くの遠くの南の海だよ。」
さう言ひながら祖父は、遠い空を透かし見るやうな仕草をした。
いよいよ出港の時間になり、俺が祖父に促されて甲板を見上げると、水兵達は揃つた美しい敬礼をしてゐた。
「あの船は戦争に行くの?」
港からの帰り道、俺はまた祖父に問ふた。
「違ふよ。」
祖父は繋いでゐた手を放して俺の肩を抱いた。
「あの船は帰つて来る。ちやんと此処へ帰つてくるんだ。」
あの時の祖父の、哀しいやうな労しいやうな眼差しを、俺は今でもよく覚へてゐる。