2ntブログ

帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


お月見デート。

十五夜なので、朝のメールでデートに誘ったら、

「いいね。」

と返信があった。
すかさず、愛してると返して出勤。
仕事をしながらプランを練っていたのだけれど、観月がメインだから食事は軽く、運転が有るから酒は無しでと云う事で、翼の希望も聞きながら、夕飯は回転寿司になった。

大人のデートなのだから、月の見える高層階のレストランでディナーなんて云うのも良いのだけれど、人の多い所は気を使うし、メインは月見なのだから、とにかく、ゆっくり月を眺められる場所が良いと云う事で、河原と迷ったけれど、某市の一面に田圃が広がる場所へゆく事にした。

田圃の脇の道に車を停めて細い道を降りてゆくと、自分の影で影踏みが出来そうな程濃い影が畦道に落ちる。
来る途中で買ったカフェオレの缶をぷらぷらさせながら、機嫌良く歩いていた翼が、ふと立ち止まり振り向いた。
少し離れているから表情は見えないけれど、何か企んでいる様な雰囲気だ。
俺が人差し指を立てて左右に振ると、翼は俺に向かって来いと云う仕草をした。それから左手を斜め下へ差し出す。
俺は足下に気をつけながら、翼の元へと急いだ。

翼の横に並んで右手を出すと、少し照れた様にしながら翼が手を繋いできた。
手のひらに冷えた指先が当たる。
余り強く握らない様にしながら肩を寄せると、翼が俺を引っ張る様にして歩き出した。

田圃は一面に稲穂が実り、風が吹く度にザァッと云う音が遠くまで駆けてゆく。その先に小さな駅の灯りが点り、踏切の音が微かに響いてくる。
俺と翼は暫く歩いてから立ち止まった。
月は煌々と輝いて、時折そのかんばせを淡い雲が撫でてゆく。

「寒くないか?」

俺は明るい方へ顔を向けて、翼に話かけた。翼は首を傾げて俺の口許を見ていたが、やがて微笑んで首を振った。

ここで寒いと言ったら、抱き寄せるつもりだったのだけれど、宛が外れてしまった。それでも懲りない俺は、翼にこの後どうするんだと尋ねた。

食事もしたし、十五夜の美しい月も十分に堪能した。残るはアレしかないだろ。

翼はパンツのポケットから小さなノートを取り出すと、何か書いて俺によこす。俺が月明かりでそれを読んでいると、翼は俺の腰に腕を回してきた。

ノートには、今夜はキスだけにしようと書いてあった。

俺はノートを自分のパンツのポケットに捩じ込んで、翼と向かい合った。
苦笑しながら翼に、

「本当に?キスしかしないの?」

と聞くと、翼は真面目な顔でこっくり頷くと、空の頂きにかかる満月を指差した。

月が見ているとでも言うのかよ。

俺は月明かりに照らし出された翼の小さな白い顔に口付けた。
唇はひんやりとしていて柔らかかった。
手を繋いで歩き、他愛のない言葉を交わしてはキス。また少し歩いてその唇に、瞼に、耳許にキスをするのは、なかなか風情が有る。
繋いだ指にキスをしたら、胸が疼く様に痛んだ。

その後は伝えたい言葉の代わりにキスをした。

それから、俺達は何度もキスを交わしたが、翼の身体がすっかり冷え切ってしまったので車に戻る事にした。

せっかく会えたのだから抱きたかったけど、キスがクライマックスになる様なデートもなかなか良いもんだな。

もどかしい様な切ない様な感覚を味わって、キスの良さを再認識した夜になった。
  1. 彼との事
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