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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


お嬢。

よく、あの人はお嬢だからとか、お嬢様育ちだからと云ふ表現をしますけれど、大抵はただの“世間知らず”の女の子だつたりします。

取引先の以前の俺の担当だつた女の子が、本物の“お嬢”でした。
何故、本物と言へるのかと言ふと、実は俺、彼女の実家も御父上も、よく存じ上げてゐるのです。
元々は親父の仕事絡みの知り合ひで、俺が何処からも内定を貰へなかつたら、親父がこの人の会社に入れてやる(死んでも嫌だ。)つて言つてたんだよね。住所も俺の実家と同じ市内です。
彼女には内緒なんだけどね。

彼女と彼女の上司、俺と俺の上司で飲みに行つた事が有るんだけど、彼女は門限が有るのでと言つて、10時前に帰つた。
その時に、双方の上司が変な気を回して、俺が送つてゆく事になつたんだけど、駅までの道を歩きながら色々と話したら、門限がと云ふのは嘘だつた。

「まだ遊んでゐたいのですけれど、自分が見苦しくなる前に帰りたいのです。」

明日も仕事ですし、と彼女は言つて、悪戯つぽく笑つた。
女の子同士でもそんなに遅くまではうろつかないし、深夜に帰宅する時に使ふタクシーは、いつも決まつた女性の運転手さんにお願ひしてゐるさうだ。
言葉の端々から、家族に心配を掛けたくないと云ふ気持ちが窺へて、良い娘さんだなあと感心した記憶が有る。
お嬢様と言ふと、淑やかで大人しくてと云ふイメージが有つたけれど、彼女は明るく生き生きとしてゐた。それでも何処か品が有つて、何かにつけて、育ちの良さを感じられる人だつた。
一番感心したのは言葉遣ひだ。
職場では丁寧な言葉遣ひだつたけれど、俺とはかなり打ち解けて話してゐた。

それが、彼女の場合は普段の言葉遣ひの方が正統派のお嬢様言葉で、彼女と二人でゐると、周りの視線が快感だつた。

彼女は製薬会社のサラリーマンと結婚して、転勤する夫君に従つてドイツへ行つた。
彼の地でも、日本人女性のイメージアップに、多大に貢献してゐる事と思ふ。

「今、ちよつとよろしくて?」

今でも受話器から聞こへる彼女の声を思ひ出す度に、白い花が揺れるのを見る心地がします。
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