ドン・キホーテかランスロットか。
同期で隣の課にゐる奴と、たまたま食堂で顔を合はせたら、なんと奴の額には、でかいガーゼがべつたり貼り付けられてゐる。
吃驚して理由を尋ねると、同期曰く“名誉の負傷”らしい。
なんでも庭の銀杏の木に近所の仔猫が登つてしまひ、降りられなくなつてしまつたらしい。
さうしたら、いつも同期を空気扱ひの同期のお嬢さんが、泣かんばかりに同期に訴へてきた。
「パパ、助けて!ゆりあ(仮名)パパしか頼れる人がゐないの。猫ちやんが泣いてるの!」
これで奮起しない父親がゐるだらうか。
他人の俺でさへ、馳せ参じたくなる。
もちろん、同期は張り切つた。
姫に忠誠を誓ふ騎士のやうに。
そして、二階のベランダから木に伝ひ移つた同期の闘ひは、始まる前に終はつた。
猫撫で声で自分の名前を呼びながら躙り寄つて来る険しい顔のオッサンと、大きく揺れる枝に怯へた仔猫は、同期の顔を踏み台にして、ベランダで待機してゐた飼ひ主さんの腕に飛び込んだのだ。
ガーゼはお嬢さん手ずから貼つて下さつたさうだ。
涙に濡れた長い睫毛を間近な見ながら、同期はお嬢さんの幼い頃を思ひ出してゐたさうだ。自転車で転んで膝小僧を擦り剥き、同期に絆創膏を貼つて貰つてゐたあの日。
「嫁にやるまでには、子離れしなきやなあ。」
さてさて、どんな王子様が騎士から姫を奪つてゆくのやら…
吃驚して理由を尋ねると、同期曰く“名誉の負傷”らしい。
なんでも庭の銀杏の木に近所の仔猫が登つてしまひ、降りられなくなつてしまつたらしい。
さうしたら、いつも同期を空気扱ひの同期のお嬢さんが、泣かんばかりに同期に訴へてきた。
「パパ、助けて!ゆりあ(仮名)パパしか頼れる人がゐないの。猫ちやんが泣いてるの!」
これで奮起しない父親がゐるだらうか。
他人の俺でさへ、馳せ参じたくなる。
もちろん、同期は張り切つた。
姫に忠誠を誓ふ騎士のやうに。
そして、二階のベランダから木に伝ひ移つた同期の闘ひは、始まる前に終はつた。
猫撫で声で自分の名前を呼びながら躙り寄つて来る険しい顔のオッサンと、大きく揺れる枝に怯へた仔猫は、同期の顔を踏み台にして、ベランダで待機してゐた飼ひ主さんの腕に飛び込んだのだ。
ガーゼはお嬢さん手ずから貼つて下さつたさうだ。
涙に濡れた長い睫毛を間近な見ながら、同期はお嬢さんの幼い頃を思ひ出してゐたさうだ。自転車で転んで膝小僧を擦り剥き、同期に絆創膏を貼つて貰つてゐたあの日。
「嫁にやるまでには、子離れしなきやなあ。」
さてさて、どんな王子様が騎士から姫を奪つてゆくのやら…