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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


御見逸れしました。

昔々、俺がまだ社会人1年生の頃、同期数人に引きずられ、初めてキャバクラと言ふ所へ言つた時の話。

トイレから出てくると、俺達の席についてくれた嬢の一人が立つてゐた。

「お客さんはどんな女の子が好みなんですか?」

「そうですねえ、君なんか凄く可愛いと思ふけど。」

我ながら上手く答へられたなあと思つてホッとしてゐる俺に、嬢はにつこり笑つて言つた。

「お客さん、ゲイでせう。」

ぐうの音も出ないとは当にこの事だ。
ポカンと口を開けたまま立ち竦む俺を見て、嬢は悪戯つぽく笑つた。

「だつてお客さん、あたしのオッパイ見ないもん。」

「…はあ。」

成る程、自分で言ふだけあつて、嬢は見事なオッパイをしてゐる。

「誰にも言ひませんから。大丈夫、あたしの友達もゲイだし。」

「…ありがたう。」

助かつたのかヤバいのか、状況がよく判らないまま俺は嬢と一緒に自分の席へ戻つた。

それ以降は話の内容も酒の味も覚束ず、上の空で相槌を繰り返すだけだつた。

あんなにあからさまに、女性にゲイでせうと言ひ当てられた経験は、後にも先にもあの時だけだ。
あれきり会ふ事は無いけれど、彼女は今頃、何処でどうしてるゐのかなあ。


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