葉牡丹やさはりと暮るる街の夕
某団体の賀詞交換会に出席しました。
挨拶は面倒ですけど、スーツ姿のオッサンを一時にたくさん見られるので、けつこう好きだつたりします。
いかにも余所行きの、パリッとしたスーツとネクタイの中に一人だけ、濃紺のブレザーに臙脂のアスコットタイの人がゐた。
ラフな服装の印象そのままに、彼はよく飲み、よく喋り、よく笑つてゐた。
その内に彼は俺のゐるテーブルに知り合ひを見つけて此方へ来た。
若く見えるけど俺よりも歳上だろう。前髪や揉み上げには白い物が混じる。
上品な煙るやうな眉と、男にしては紅い唇が艶つぽい。
その唇をワインが濡らすのを俺は息を殺して見てゐた。
「何処かでお会ひしましたつけ。」
ふと気づくと彼は俺の直ぐ横に立つてゐた。
「いえ、初めてお目にかかると思ひます。」
「そうでしたか。失礼しました。」
「いえ…」
ほんの2、3秒の間、俺達は正面から見つめ合つた。
チリチリと云ふ焦りのやうな感情が胸から胃を撫で下ろして僅かに呼吸が乱れる。
「もしかしたら、何処かで会つてゐるかもしれませんね。」
「ええ。」
彼は口元だけで笑ふと、次のテーブルへ歩み去つた。
挨拶は面倒ですけど、スーツ姿のオッサンを一時にたくさん見られるので、けつこう好きだつたりします。
いかにも余所行きの、パリッとしたスーツとネクタイの中に一人だけ、濃紺のブレザーに臙脂のアスコットタイの人がゐた。
ラフな服装の印象そのままに、彼はよく飲み、よく喋り、よく笑つてゐた。
その内に彼は俺のゐるテーブルに知り合ひを見つけて此方へ来た。
若く見えるけど俺よりも歳上だろう。前髪や揉み上げには白い物が混じる。
上品な煙るやうな眉と、男にしては紅い唇が艶つぽい。
その唇をワインが濡らすのを俺は息を殺して見てゐた。
「何処かでお会ひしましたつけ。」
ふと気づくと彼は俺の直ぐ横に立つてゐた。
「いえ、初めてお目にかかると思ひます。」
「そうでしたか。失礼しました。」
「いえ…」
ほんの2、3秒の間、俺達は正面から見つめ合つた。
チリチリと云ふ焦りのやうな感情が胸から胃を撫で下ろして僅かに呼吸が乱れる。
「もしかしたら、何処かで会つてゐるかもしれませんね。」
「ええ。」
彼は口元だけで笑ふと、次のテーブルへ歩み去つた。