2ntブログ

帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


昔の男。

懐かしいアドレスからメールが来た。

いや、懐かしいと言ふか疎ましいと言ふか、ちよつと複雑な相手。
暫く関西にゐたらしいけど、転勤でこつちへ戻つて来たらしい。

会ひたいと言はれたら断るつもりだつたけど、向かうから夕飯でもと言つてきたから飯を食ふ位ならと思つて、会ふ事にした。

「変はらないね。」

「そつちもな。」

相変はらずの何か企んでゐさうな笑窪。あの頃はこれにやられてたんだなあ俺はと改めて思ひ返す。

「俺さあ、彼氏ができたんだ。」

「何番目のだ。」

さう言ひながら煙草に火を点けて奴にも勧めると、奴は禁煙したんだと言つた。

「先月から付き合ひ始めたんだけど…」

奴は俺の目を見つめながら言葉を続けた。

「彼氏が出来たらさ、なんだかあなたに会ひたくなつちやつた。」

「俺に似てるとか?」

見つめ返すと奴は目を伏せて首を降つた。

うなじが色つぽいのも相変はらずだ。
このうなじにその男の指先や唇が触れるのだらうかと想像してみたけれど、たいした感慨も湧いてこない。

「今、付き合つてる人、ゐるの?」

「ああ。やつと1年だけどな。」

「1年も…」

へえと言はぬばかりに奴の眉が上がつた。

「悪いか?」

「ううん。」

俺が睨むと奴はまた目を伏せた。

あの時、奴は俺のせいだと言つた。俺が引き留めなかつたから別れるのだと。
別れようと言はれたら別れるしかないだらう。別れたくないなら、そんな事言はなけれあいいんだ。

「どんな人?」

「どんなつて、普通の男だよ。」

一瞬だけ奴の目が鋭くなつた。

「良かつたね。お互ひに幸せで。」

「ああ。」

幸せなのか?
ふと口を衝いて出さうになつた言葉を、俺は酒で流し込んだ。

何故だか判らないけど、それを聞いてはいけないやうな気がした。


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