帆を張るやうに胸を張れ

俺はパソコンを持つてゐない。
デスクトップもノート型も、スマートフォンやタブレットの類も。

元々機械類は苦手だし、無くても困らないから持たないんだけど、今時そんな人も少なくなつてきて、さう言ふとけつこう本気で驚かれる。
携帯でも“スカイプ”が出来る時代、恋人の顔が見たい、声が聞きたいと思へば、わざわざ会ひにゆかなくとも繋がる事の出来る時代にそれをしないつて、今時の人達からしたらすげえ不思議な事なんだらうな。

昔はどんなに会ひたくつても、会へない時は会へなかつた。
手紙か、せいぜい電話で繋がれるくらゐ。
それから“ポケベル”が出て、“カー電話”が出て、個人が携帯を持つやうになつた。
俺だつて携帯が無けれあ夜も日も明けない。仕事でもプライベートでも。
昨年の夏からはブログも始めたし、それ以前から俳句や短歌の掲示板を通してたくさんの俳人や歌人と交流してゐる。知りたいと思ふ事が有れば即座に調べられるし、連絡を取りたい人とも直ぐに連絡を取り合へる。

インターネットは本当に便利で手軽で、凄い発明だと思ふ。

様々な形での出会ひのチャンスが増えたし、繋がりたい時には直ぐに繋がる事が出来る。
今時の恋人達は前よりもずつと密に、ずつと濃く繋がる事が出来るやうになつたのだらう。

俺は考へる時間が無いと恋愛が出来ない。
会へない時間に自分や相手の事を考へるから、四六時中繋がつてたら何も考へられない。

それあ、ずつと一緒にゐたいし繋がつてゐたいけど、多分それだとやつていけない。

俺は時代に逆行してるし損をしてるんだらう。
それでも俺の“恋”は、便利や手軽とは一番遠い場所に有る。