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帆を張るやうに胸を張れ

同性愛者のサラリーマンのblog


A沢さんが斬る。

入社当時の事。
学生生活の延長のやうな研修期間が終はり、いよいよ今日から本格的な業務に就くと云ふ日の緊張は未だに忘れられない。
各々別の課に配属されながらも、社内で見掛ける同期の姿は心強く、廊下やトイレで会ふのが楽しみだつた。

あの頃からA沢の存在は抜きん出てゐたやうに思ひます。
そしてあの頃から俺はA沢の玩具だつた気がします。

「ねえ。天井に手届く?」

俺はどうだらうと首を傾げながらも、片手を上に上げて跳んでみました。

「惜しい。」

A沢の不服さうな表情と声に押されて、俺はもう一度跳んでみた。

「何をやつてるんだ。」

当時の上司に学生ぢやないんだからと怒られる俺を、A沢は笑ひを噛み殺しながら見てゐたつけ。

先日車の話をしてゐて、俺がツーシーターのベンツやミニクーパーが可愛いと言ふと、

「確かに可愛いけど…」

A沢は俺の頭の天辺から足の爪先までを見やつてかう言ひました。

「あんなに小さな車からあなたみたいな人が出てきたらみんな吃驚するわね。」

ベンツもミニクーパーも外国の車ですから!
外国人は俺よりデカいですから!

斬られ続けて最早涙も出ませんけど、見捨てられないだけ良いのかなあと思ふ今日この頃。


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